受動喫煙対策法案等について

まず僕は喫煙者ではありますが、喫煙の頻度は低く、「明日から一切吸うな」と言われたら「はい分かりました」と特に苦もなく禁煙できてしまう人間なので、件の法案・条例案については、僕個人はあまり利害関係者ではありません。要するに、どっちでもいい、です。僕にとってタバコを吸うという行為は「チョコレートを食べる」くらいの感覚で、別になくてもいいけどその場にあって気が向いたら吸う、くらいのものです。体質的にニコチン中毒が生じにくいのかなんなのか分からないのですが。

が、世の中ではなかなか激しく議論がされているようで。どっちでもいいとは言ったものの、一応喫煙者ですから自由であるに越したことはないし、僕が好きな喫茶店の西荻窪どんぐり舎などに行くと、コーヒーのお供のタバコがなんだかセットであるように感じますから、かの店の面積が100㎡以内かちょっと気になったりなんてしているので、関心がないわけでもなく。というわけで、世の議論の例を一つまみしてみて、少しだけ考えてみようと思った次第です。

色々と論点はあるのですが、今回は飲食店の立場から考えてみたいと思います。

(どうでもいいですけど「防止対策」という言葉にはやっぱり僕は違和感を感じます。「受動喫煙防止」か「受動喫煙対策」なんじゃないでしょうか。それとも「受動喫煙防止(を訴える人間)対策」なんでしょうか。)

 一つ目。

http://www.ss-foodlabo.com/special/img/sub_special_right_ill_02.gif(上記記事より引用)

少し古い記事のようですが、神奈川県の受動喫煙防止条例の影響を、飲食店の声を交えながら論じています。条例施行から2年ほど経ったころの状況のようです。この記事によると条例施行に伴って喫煙環境を変更した店の四割ほどで客数・売上が減少したとのことです。まぁ、予想通りというか、でしょうね、という感じですね。まぁしかし、施行から二年しか経っていないので、全体で中長期的視点で考えれば売上への悪影響も収束していくのかもしれませんが、飲食店の立場からすればたまったものじゃありません。

二つ目。

今度は新しい記事。先程の記事とは反対に「総じて規制強化の影響は少ない」としています。根拠の一つとしてあげられているのは、関連調査の数多いアメリカにおいては、そのほとんどで客数・売上・雇用に悪影響はない、とのこと。一方で悪影響があるという論文もある、ともしていて、フラットな立場で書いている、という印象を受けます。それぞれ調査の出処も明示されています……が、悪影響なしとする調査三つが99年、00年、03年のもの、悪影響ありとする調査は07年、というのは、「ほとんどで悪影響なし」という記述と見比べると、若干違和感はあります。

とは言え、日本とアメリカではタバコにまつわる状況は割と異なっているようにも思えます。そのため本記事には日本における調査結果もあります。一つ目は2009年の愛知県での大規模調査が挙げられています。それによれば、禁煙化を行った店舗のうち約95%では売上が変わらなかった、とのこと。これはちょっと意外で驚きのデータです。というか、一つ目の神奈川県のデータと大きく食い違っています。どういうことでしょうか。

画像(上記記事より引用)

結論から言うとコレ、個人的には結構悪質なやり口です。そもそも、愛知県では別に「受動喫煙防止条例」ないしそれに類する条例等は施行されていません。つまり、この調査における「禁煙化を行った店舗」というのは、当然店舗側が経営判断として「禁煙化を行った」わけで、そりゃそれで売上落ちたら単なる経営判断のミスです。つまり、禁煙化したら売上減少するだろうと思われる店舗は、わざわざ自分から禁煙化なんかするわけないだろうという話です。むしろ、売上が上がるように禁煙化を行ったのに98.6%の店舗で売上が上がらなかった、と逆の見方すらできます。受動喫煙防止条例は、神奈川県で2010年に施行されているのに、何故条例施行のない愛知県の2009年の調査を、わざわざ2017年の記事で引用しているのか。さすがに恣意的と言わざるを得ません。

が、一方で、神奈川県のデータもちゃんと載っています。条例施行後の業態別の店舗数の変化です。

画像

(上記記事より引用)

平成18年に栃木県の食堂・レストラン業界で一体何が起きたのか、そして「その他」とは、というのが非常に気になりますが、ひとまず置いとくとして。そもそも何故わざわざファクターの多すぎる「店舗数」という指標で比べようとするのか、というのもありますが、ともあれ、こうあります。

関東と山梨・静岡各県と比べてみても、神奈川県の店舗数の変化に大きな違いはない。各グラフの縦の青線が条例施行年。神奈川県に限らず、各都県で喫茶店が大きく減っている。日本禁煙学会・日本禁煙推進意志歯科医師連盟「富士経済(株)による「『受動喫煙防止法案(たたき台)』施行による外食市場への影響を調査」と題するプレスリリースに関する共同声明」より引用改変。

全然中立的な立場じゃないよこの人たち!というのはさておき、喫茶店が減ってるけど、これは神奈川県だけじゃないよね?とありますが、そうは言っても神奈川県がダントツの激減です。施行直前に傾きが急になって、10年で4割弱減ってます。横浜といえばレトロ喫茶のイメージありますが、こんなに減ってたんですね…。まぁ、全体を見れば確かに条例施行によって飲食店数が減ったとは言えなさそうです。ただ、やっぱり店舗数だと、ファクターが多すぎて読み方が色々ありすぎますね…。

さて、二つの記事を合わせて振り返ってみると、立場であったり考えによって、記事内容が大きく異なるのは、まぁ当然といえば当然ですが、それにしても二つ目の記事の嫌煙への偏り加減はちょっと酷いように思えます。データの引用が恣意的ですし、書き方的にもフラットに書いているようで、ブロックごとの最後は禁煙化への肯定的な記述で締めています。

一つ目の記事において記載されている筆者の主張、”民間企業の店舗運営に行政が出過ぎたマネをするな” というのは、割と正論には思えます。以前テレビでちらっと、禁煙化義務付けに賛成する店舗の声として「煙草の煙から解放されて食事を楽しめるようにするのは飲食店としてメリットも大きい」という旨のものを見ましたが、いやそれなら条例にかかわらずアンタんとこが禁煙にすればいいだけだろ、と言われたらおしまいなので、ちょっとそれも意味不明。店舗の売上の観点から考えたら、条例でなく各店舗が禁煙化・分煙化をするかの判断を行い、消費者が店を選べば良いに決まっています。

結局のところ、受動喫煙対策条例/法というのは、東京オリンピックも視野に入れつつ、世界各国と比べても最低クラスと言われる日本の対策を改善し、受動喫煙や「能動喫煙」の健康被害を抑えることによって労働や経済の損失を減らそうという、飲食店における売上に限らない、もっと全体的な視点におけるものです。僕もそれに関しては至極妥当な考え方だと思います。しかしそれを、飲食店の売上も落ちない、なんて言うのは、ちょっと意地になってキレイゴトを言い張ってるような印象で、ちょっと無理筋な気はします。規制強化は、社会全体で見ればプラス、しかし飲食業界においてはマイナス、当然ながら結局そういうことだろうと思います。そこを混同すべきではないでしょう。

いずれにしても、喫煙者のみなさまは今後ますます肩身の狭い思いをされることと思います。さっさときっぱり辞めるのも一つの手です。それでも続けられる方は、マナーを守って喫煙を。