実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』を見ました

3月末のことですが、友人に誘ってもらって、ハリウッド版『ゴースト・イン・ザ・シェル』を見に行きました。

 

特段僕は攻殻機動隊シリーズのファンではありませんし、TVアニメシリーズに関してはほぼ見ていないのですが、今回はチケット代を払って見たのではなく、一般公開前の試写会で、友人は運良くその抽選に当たったとのことでした。

結論から言って非常に中途半端な映画という印象でした。攻殻機動隊として中途半端、SF映画として中途半端、ハリウッド映画として中途半端といった感じでしょうか。そして、決して「クソ映画」とか「超B(C)級」とか所謂「原作レイプ」とかでもなく*1、且つ、正直「一応面白くはある」くらいの映画ではある、という感じのため、酷評することも絶賛することもできない、中の中です。

攻殻機動隊として

まず前提として、僕はこういった実写化に関して必ずしもストーリーや設定などが原作に忠実である必要があるとは思っていません。オリジナル要素が含まれていても、それだけでは作品を否定する根拠にはなりえないし、実写化であったりアニメ化であったり、異なるメディアへ変換される際にはそのメディアに適した表現が選択されるべきと思いますので、取捨選択も新要素追加もそのための手段として否定されるべきではないはずです。

とは言え、シリーズにおいて僕がこれまで見たのは『GHOST IN THE SHELL /攻殻機動隊』と『イノセンス』だけなのですが、それらと比較して気になったのは、これまでの攻殻機動隊シリーズに流れていたであろう哲学性が、かなり薄く感じられたことです。ハリウッド版ゴーストにおけるメインテーマは、確かにアニメ版ゴーストにも含まれていたものでしたが、それはあくまで一部分でしかなく、作品全体のテーマはもっと大きなものでした。それはハリウッド版が哲学的で難解なとっつきにくいものにならないためでしょうが、そこだけ切り取って見ると攻殻機動隊でなくても扱える、というかあまりに使い古されたテーマで新奇性もなく、どうにも作品世界が矮小化されてしまった印象は拭えません。

また、キャラクターに関しても、非常に中途半端でした。バトーやトグサ、荒巻部長など、登場人物の名前は原作を受け継いでいるのですが、人格などはどうにも別物で、表面上で設定が付加されたりはあるものの、別のキャラクターになっていると言ってよいでしょう。中途半端というのは、原作キャラクターを用いるならば、もっときちんと原作を反映したキャラクターを作り上げるべきでしたし、そうでないならば、全く新しいキャラクターをイチから作り上げるべきだったと思ったからです。この表面的なやり方では、反感を買うことも多いでしょう。

この「表面的」というのは、作品全体に言えることで、要所要所で感じます。上のトレイラーを見れば分かりますが、アニメ版ゴーストに登場したシーンは、ハリウッド版ゴーストにも多く登場します。しかし、逆に言うとそれだけ、といった印象で、シーンが先行してしまっていて、「ホラ、アニメにあったシーン、ちゃんと撮ったよ!」と言わんばかりと思いました。「実写化」というのをどう捉えるか、という問題でしょうが、単に原作にあったシーンを実写映像化するだけがその意味ではないと思ってしまうのは、僕が期待しすぎなだけなのでしょうか。

SFとして

僕は、今回のハリウッド版ゴーストを見ている最中からずっと、これだったら素直に新作を作ればよかったのに、と思っていたのですが、では、一旦このハリウッド版ゴーストが攻殻機動隊であることを忘れて、一本の独立した映画として見てみましょう。一本の娯楽的SF映画として考えたときに、個人的にはそこまで悪くはない、とは思っていますが、決して良くもないというのが正直なところです。アニメ版ゴーストで描かれたように、また或いは『ブレードランナー』で描かれたように、ハリウッド版ゴーストの世界にも東洋的モチーフが多く取り入れられています。しかしこれも、やはり表面的というか、「はい東洋入れてみました」みたいな安直さを感じてしまいます。上のトレイラーにもある、芸者ロボの日の丸メイクに違和感を覚えたのは僕だけではないはず。SF的想像力によって描かれるグローバリゼーションの結果東洋と西洋の混在した世界、ではなく、「西洋から見て思いっきり偏った東洋」がフレーバー的に足されている、といった印象で、一種のオリエンタリズムを感じます。SF映画の最も大きな魅力の一つは、やはり一つのifとしての未来世界を映像にして見せることにあると思うのですが、本作で描かれた世界には僕は違和感を感じさえすれ、魅力的とは全く思えなかったのが率直な感想です。

ハリウッド映画として

ここに来てちゃぶ台をひっくり返すようですが、ぶっちゃけて言えば、実はそもそも僕はこのハリウッド版ゴーストに、全然上記のような観点での期待なんてしていなくて、もう荒唐無稽で無茶苦茶なハリウッドハリウッドしたジャンクフード的攻殻機動隊を見に行くつもりでした。ド派手なアクション!大爆発!超スピード!みたいなやつです。

しかし、残念ながらそれも満たされることはなく、それが個人的には本作について最も不満に思っている点かもしれません。派手すぎても良いくらい、なんならちょっと笑っちゃうくらいのアクションが欲しいところなのに、それどころか、作品上の設定である義体化による能力のすさまじい向上、みたいなのすらあまり感じられない気がします。

また、或いは、スカーレット・ヨハンソンが「体当たりの演技」*2を見せてくれたりすれば、それはそれでよかったんですが、なんか、あの、ね、のっぺりした…まぁ、しょうがないんでしょうけど…そしてそこは責められるはずもないんですが…、はい、なんでもないです…。

2017年の映画として

なにしろ、アニメ版ゴーストから22年、『マトリックス』から18年、『ブレードランナー』からは35年も経っているんですよ。映像とかは当然キレイではありますが、2017年に公開する映画として、色んな意味でこれは果たしてどうなのかなぁ、というのが率直な感想です。しかし、繰り返しになりますが、元々期待なんかしていなかったので、どうせなら「とんでもねぇクソ映画を見ちまったぁ〜!」とか「あの攻殻機動隊をこんなにしやがってぇ〜!」とか、みたいな感じを得ることに期待していたんですが、残念ながらそれも達されず。徹頭徹尾、中途半端な映画であるというのが僕の評価です。中途半端な映画ほど人におすすめできないものもない、ということを身を以て知らされた気持ちでいっぱいです。もしその中途半端さを以って「人間と機械の境目の曖昧さを表現している」なんて言われたら僕は白目をむいてひっくり返ります。

*1:とはいえ、原作から変えられた部分は多いし、原作の良さはだいぶ失われていますが、なんというか、それがこの映画の決定的欠点にはなっていない印象です

*2:この表現、世における使われ方が本当に偏っていて面白いと思うのですが、こうして婉曲表現として使ってみると存外便利ですね。。