ホッピー論

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皆様はホッピーの「三冷」をご存知でしょうか。

僕も知ったのは割と最近なのですが、これはホッピーの製造・販売を行っているホッピービバレッジの提唱ないし推奨する、ホッピーの美味しい飲み方です。「三冷」とは即ち、「ホッピー・焼酎・ジョッキの3つをよく冷やすこと」なのですが、まぁそれ自体は、なんというか普通というか、まぁそうだろうね、という感じなのですが、これのミソは「三冷」自体というよりも、その「あと」にあります。

三冷(さんれい)

ホッピーのおいしい飲み方。ホッピー・焼酎・ジョッキの3つをよく冷やすこと。 昭和40年代後半ごろ発明されたと伝えられる。

① ホッピーと甲類焼酎(25°)をよく冷やし、ジョッキは冷凍庫で凍らせてください。
② 焼酎、ホッピーの順に注いでください。黄金比率は1:5。泡が立つように勢いよく注ぎ、かきまわさないのがコツ。アルコール約5%のホッピーになります。
※氷を入れると風味が損なわれます。くれぐれもご注意を!

お気づきでしょうか。

  • 焼酎、ホッピーの順に注いでください。黄金比率は1:5
  • 泡が立つように勢いよく注ぎ、かきまわさないのがコツ
  • 氷を入れると風味が損なわれます

そう、こちらの方が衝撃的、というか馴染みがないはずです。何故なら、居酒屋でホッピーを頼むと、これに悉く反したものが出てくるからです。

一般的な居酒屋でホッピーを頼むと、常温或いは洗浄機で洗われてやや温かいジョッキに、氷がたっぷりと入れられ、その上でやたら多く焼酎が注がれていて、そこにマドラー*1が差してあって、それとセットで下手すれば常温のホッピーが登場します。なんでしょうか。ホッピービバレッジになにか恨みのある人間がプロパガンダでも行ったんでしょうか。「三冷」を知った上で、改めてこれを見ると、なにか悪い冗談のように思えてきます。

僕がこの「三冷」を知ったのは、高円寺の『大陸バー 彦六』という店で、今のところその時一度行ったきりなのですが、ここでこの「三冷」に基づいたホッピーが出てきたのです。これを飲んだ時、僕は素直に「美味い」と感じ、それは静かな衝撃でありました。何故ならそれまで、僕の中でのホッピーというものは「ザ・安酒」であって、安く酔っぱらえるということと、不味さが少ない*2、そして昭和レトロ的な空気を感じ(ている気分を感じ)られるということにのみ、価値を感じている飲み物だったからです。更に衝撃であったのは、店内*3に張ってあったホッピーのポスターにも小さな字ながら、この「三冷」について書いてあったことです。

それ以降、僕はホッピーへの評価を大きく改め、しかして外ではこの「正しい」ホッピーを出す店がほとんどないために、家でホッピー「正しい」飲み方で飲むこととしたのです。ちなみにここには、ドイツ・チェコへの渡航経験に基づいた、というかその経験のせいで、日本のビールに満足できなくなったという事情もあり、それならいっそ、ビールとは異なる飲み物としての*4、ホッピーという日本特有の飲み物に価値を見出して、飲んだほうがいいんじゃないか、なんていう考えもあります。

さて、話はもう少しマニアックになります。多分、僕が調べた限り、これからする話をちゃんと整理しているページはないはずです。ホッピイストの皆々様におかれては、有益な情報になるかもしれませんので、刮目していただきたく。というのは、基本的には、この「三冷」を前提とした話になると思いますが、いざ家でホッピーを飲もうと思って、スーパーに行ってホッピーを探してみると、なにやら見慣れないそれが並んでいるのです。

f:id:gheetaka:20170618041920p:plain©hoppy beverage co., ltd.

まぁしかし、パチもんでもなし、これで間違いなかろうと思って買って家で飲んでみると、

不思議と何か物足りないのです。

ちなみに、居酒屋で飲める業務用ホッピー、実はカクヤスなどの酒屋さんでも買えます。そのため、僕はスーパーで市販用を書い、カクヤスで業務用を買い、飲み比べブラインドテストを行いました。結果、何回も行いましたが毎回はっきり判別ができました。

これは、割と昔から議論があったようなのです。居酒屋で飲むホッピーと家で飲むホッピーは違う、と。居酒屋で飲むほうが美味い、と。そのため、ホッピービバレッジに問い合わせた人々もいたようです。何が違うのかと。しかしホッピー公式の答えは、原則的に「中身は何も変わらない」ということであったようです。そのため「居酒屋の雰囲気で飲むから美味く感じるのだ」という説も力を得ていたようです。

しかし実際のところ、この、スーパーで買える市販用ホッピーと、居酒屋で飲める業務用ホッピーにはいくつかの違いが有ります。

まず、容量。市販用ホッピーは330ml、業務用ホッピーは360mlです。

世の中には、これが味の違いであると考える人もいたようで。つまり、ビン封入時の中身は同じでも、それからの経時変化が、330mlと360mlではなにか異なるのではないか、と。

残念ですが、人間の、まぁ少なくとも一般的な人間の舌は、そんなレベルではないと思います。そこに違いが現れる可能性は、否定はしませんが、とは言え…。ちなみに、おなじような論点で、ビンの形状の違いを挙げている人もいましたが、同様の理由により、僕的に却下です。

次に、ビンの違いです。これは少し僕も支持していました。

これはどういうことかというと、市販用ホッピーは「ワンウェイビン」、業務用ホッピーは「リターナブルビン」なのです。前者は飲まれて空っぽになった後は、資源ごみとして割られて溶かされて、という末路を辿りますが、後者は殺菌洗浄されればそのまま再び使用されます。前者はリサイクル、後者はリユースです。

つまり、その違いが、なんらか味の違いになっているのではないかと。新たに作られたガラスビンの内側表面と、リユースされて使い古されたガラス瓶の内側表面では、なにか違いがありそうですし、内容する液体に対する影響も、何かしらの差異が生まれるのではないかと。そんなことを思い、僕はそのビンの種別によって味の違いが生じている説を少し支持していました。

はい。過去形であるのには理由があります。

注目すべきは、今年(引用者註:2011年)3月に完成したリターナブル瓶専用ライン。よりおいしいホッピーをつくるための確かな技術と、高性能の機械を導入している。このラインにより、味のクオリティを一層高め、より効率的に生産できるようになったとのこと

いや、これじゃん。

※2011年3月以前にも、市販用と業務用で味が違うと言っていた人はいたようですが、それは僕飲んでないので知りません

※これは調布工場の話なので、この工場の製造範囲外の地域で云々言ってる人も知りません

※逆に、「そういう都市伝説あるけど、飲み比べてみたら全く同じだったよ」という人もいます。が、少なくとも調布工場のものに関して言えば違いがありそうで、僕はそのエリアと思われますので、そのエリアの人で同じだと思う人は、あんまり分かってないだけかもしれません。

はい、ともあれ、ホッピーの三冷、是非キンミヤ焼酎を買って、ご自宅でお試しあれ。

*1:ちなみに今度居酒屋でホッピーを頼んだらビンの記述を読んでみてください。傷つくからホッピーのビンにマドラーを差さないでください、とあるはずです

*2:これって実は結構微妙な話で、美味いかどうかとはちょっと別の話です

*3:厳密には店を出てすぐの廊下ですが

*4:つまりビールの代用品としてのそれでなく

本日の酒:栄光冨士 SHOOTING STAR 純米吟醸 無濾過生原酒

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↑値札ついたままですね。。

世田谷区の、住所としては「池尻」、周辺の学校的には「駒場」にあります、山内酒店にて購入した栄光冨士 SHOOTING STAR 純米吟醸 無濾過生原酒を飲んでいます。

コレ、結構美味しいです。夏限定の酒ではありますが、こういう系統にありがちな、爽やかでスッキリ、サッと通り抜けていく、みたいなイメージではありません。思ったよりしっかりしていて、複雑な味わいがあります。

まず、香りは比較的華やかです。口に含むと非常に飲みやすいイメージ、スムースでラ・フランス系の甘みが感じられ、フィニッシュにかけて米のしっかりした味に変わっていきます。アフターに向かう中で、鼻にアルコール感が抜けていきますが気になるほどでない範囲で、一方で舌には少し苦味が感じられます。とは言え、苦味も個人的にはギリギリ不快に感じない範囲、かえってそれは味わいを面白く複雑にしている感があります。余韻を残しつつ後味も消えていき、しつこい印象はありません。

僕としては、この日本酒は結構好きな部類、特にこの苦味が後味を複雑にしていきながら、米のしっかりさを印象づけていく過程なんかが結構特徴的で、割とクセになると思うのですが、しかし正直に言って、あんまり「夏酒」のイメージは持ちませんでした。"SHOOTING STAR"なんていうくらいですから、どんな鮮烈な日本酒体験かと思ったのですが、ちょっと名前の印象とは異なりました。

どうやらこの「夏酒」というジャンル、秋にひやおろしが売り出されるまでのこの時期、日本酒の売上が低迷していることから、夏にもスッキリとした日本酒を!ということで、売り出されているものらしいのです。まぁ、夏といえば、凍るくらいにキンキンと冷えた(笑)*1、キリッと切れる辛口の(笑)*2、銀色の缶のドライビール(笑)*3を飲むのが相場と決まっていますから、その影響も受けて、日本酒の売上が下がることは、なんとなく想像がつきます。とは言え、現代の冷蔵技術に感謝しつつ、しっかり冷やした日本酒をワイングラスにでも注いで飲むなんてのも乙ですし、それが、ビールに対して魅力が劣っているなんて僕は微塵も思いません。そりゃ僕だってビールは好きですが。ドイツかチェコかベルギーかに移住したいくらい好きですが。

僕はどういう日本酒が、どの地域の、どの米の、どの銘柄の、どの種類の日本酒が美味いかなんて、そんなに分かりません。餅は餅屋と言います。同様に酒は酒屋です。良さそうな酒屋は、慣れれば結構パッと見で分かるものですが、分からずとも少し調べれば知ることができます。良い酒屋で、お店の人とコミュニケーションを取りながら一本を選んで買うというのが、酒の最も良い買い方であると思っています。国の名前を冠した酒です。日本にいるなら、折角なら美味い日本酒を飲みましょう。

※そう言いながら今日は全然相談もせずに買ってしまいました

※明日はホッピーの話をする予定です

※というか今日ホッピーの話しようと思ってたのに、写真取る前に忘れて全部飲んじゃってました

*1:悪意その一

*2:悪意その二

*3:悪意その三

記述について(演劇という物語媒体【唐組『ビンローの封印』を見て】への追記として)

実は僕が、演劇という物語媒体【唐組『ビンローの封印』を見て】を書く前なのですが、『ビンローの封印』を一緒に見に行った友人が、その感想をブログに書いていました。

なんというか、同じものを見て違う感想を抱く、というのはよくあることで、勿論そういうのもあるのですが、実感というか「クオリア」なんて言いたくないんですが、そういうものは彼が書いたものを読むに割と共通しているというか、共感する部分が多く感じられました。

しかし、アウトプットがこうも異なるのか、と個人的に驚きがあり、非常に対照的で面白く思いました。

彼は小説家なのです。これは比喩でなく。そしてそのことが、観劇記という形態の中でも遺憾なく発揮されているように思え、感想を記しているものが、どことなく小説のように、フィクショナルなものに見えるように思います。表現も文学的であって、身体性が感じられます。僕が構造についての記述に終止しているのに対し、彼の文章からは臨場感や実感が伝わってきます。僕は、こういうものが書けるというのは素晴らしいことであるし、羨ましいとさえ思います。

昨日書いたことの最後の部分にも通じますが、こういう、自分と対照的なもの、というか行為、に触れると、自分が非常によく相対化されるなと思うところです。僕は、まぁこの最近改めてこのブログを書くことを再開した際、自らの感覚や知覚というものを「記述」するという目的意識であり、文学的である必要は皆無、いいものを書こうなんて一つも思うことなく「記述」に徹するべきである、と考えていました。しかし、彼の文章などを見るに、そもそも感覚の記述のために文学というものがあったのだ、という至極当然のことに改めて気付かされる次第です。つまり文学的であることを避ければ、あるいはそれができなければ、感覚の記述は自ずと限定的なものにならざるを得ない、ということだったのです。

かと言って、僕は感覚の記述を諦める、という話でもなく。感覚にしろ知覚にしろ、いずれにしろ自分について記述に努めるということは必要であると今の時代を解しています。また、彼は僕がこのブログを書いていたことがトリガーとなって、新たにブログを開設し、上記のものを書いてくれたようで、そういうことがあると純粋に嬉しいし、そういう交流は極めて望ましいものであると考えています。

誰のために書くのでもなく、ただ自らを記述すること。自己満足と言われるのが相場ですが、別に自己満足が得られる行為でもなく。このブログの所信表明とでもいうべき最初の記事の頃と今とは、多くの点で異なることがありますが、しかして見出している意味は不思議とズレていないように思え、ニワカ者の言い分は今暫く続くこととなります。